今回は、”あえる比治山”とし、お手伝いさせていただいている比治山公園のにぎわいづくり業務として開催しました。宮島や江田島で養蜂を営まれている”はつはな果峰園”の松原秀樹さんをゲストにお迎えして、はちみつ&養蜂について伺いました。その後、学んだことを比治山に活かせないかということで、”もし、比治山で養蜂を始めたら。”というお題で、ワークショップをしました。養蜂のことも比治山のこともあまり知らないと言っていた参加者も、グループで真剣に楽しく考え、ユニークな視点のアイデアを発表し合いました。
松原秀樹(まつばら ひでき) はつはな果峰園
1975年、広島県出身。東京都立大学理学部生物学科卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。営業としてITの活用を顧客に提案。 学生時代から関心の高かった農業には、週末ボランティアとして神奈川県小田原市の農家を2012年からサポート。2015年に実家のある広島県廿日市市にUターンし、独立して養蜂と柑橘を中心に農業を営む。 ITでの経験を活かし、養蜂業向けの支援システムであるBeeSensingを発案、高校時代の同級生が経営する株式会社アドダイスが開発。地域性と特色をあわせ持つ蜂蜜として、販路を拡大中。主力商品は「宮島はちみつ」、「沖美の輝き」など。
10月10日(水)、三々五々会場に集まってきた参加者のみなさんは、それぞれウェルカムドリンクのハニービネガー、チェリーブラッサムビネガー、ローズビネガー(センナリ株式会社提供)を手に、個性的なデスクの中からお気に入りの場所を選んで着席。
そして、スピッツの「はちみつ」をBGMに聞きながら定刻19:30に、あえる比治山、スタートしました。
自由な発想は、ここから生まれる
主催者挨拶のあと、会場ご提供のカルビーフューチャーラボ(CFL)クリエイティブディレクター 山邊 昌太郎様よりご挨拶いただきました。今回の会場は、広島駅前にそびえ立つBIG FRONTひろしま7階、誰もが知っている大手菓子メーカー「カルビー」の新商品開発チーム、いわば最先端の精鋭たちが集う拠点なのです。
カルビーは、かっぱえびせん(1964年)、ポテトチップス(1975年)、フルグラ(1991年)など数々の大人気商品を生み出してきましたが、2006年に発売されたJagabee(じゃがビー)以降、ヒット商品がないのだそうです。
この危機的状況を打破すべく、「新感覚のヒット商品を生み出す」というミッションを背負って結成されたのがCFLで、あえて「カルビー色」に染まらない自由な発想ができるよう、マーケティング本部がある東京・丸の内本社や研究開発本部がある栃木・宇都宮から遠く離れた広島がその地に選ばれました。創業の地である広島の資源を活用したいという思いもあったそうです。
オフィスは席が決まっていないフリーアドレス式のため、カウンター席や、壁に面したお一人様ブースなどがある中で、自分がいちばん集中できる場所で仕事に没頭できますし、また、奥にある畳を敷いた掘りごたつスタイルの応接・会議スペースで打ち合わせをすると、短時間で相手との距離が埋まって、ぐっと仲良くなれるのだそうだそうです。
地道な活動と工夫の先にあるおいしさ
続いて、本日のゲスト講師、養蜂家・松原秀樹さん登場。2013年から廿日市市で営んでおられる「はつはな果蜂園」と、普段なかなか話を聞く機会がない蜂やはちみつについて教えていただきました。
1975年、広島生まれの松原さんは外で遊んでばかりの虫好きな少年だったそうで、中高生時代は登山部に所属し、大学では遺伝学を専攻。コンピューター会社に就職したあとも「週末援農ボランティア」として3年間、休みのたびに農家の手伝いをしていたネイチャー派だったそうです。
就農を決意し、「心の原風景である瀬戸内海を眺めながらみかん農家をしたい」と広島へ帰ってきたものの、「みかんは冬だけ。みかんの花から取れるはちみつは美味しいらしいから養蜂家になろう」と早速シフトチェンジ。当初はみかん農家と養蜂家の二足のわらじでいけるだろうと思ったそうですが、どちらも思ったより忙しく、両立はなかなか難しいと感じたそうです。けれど諦めず挑戦されています。
かくして養蜂家とみかん農家の二足のわらじの道を歩み始めた松原さん。
その後、いくつもの困難も乗り越えてきました。蜂に刺されたり、蜂が分蜂してしまったり・・・。ちなみに、養蜂家の仕事をするうえで蜂に刺されることは「つきもの」ですが、経験を積むごとに扱いに慣れて、刺される回数は減るんだそうです。
養蜂家の仕事は、週に1度は巣箱をチェックし、卵や花粉の有無、病気が発生していないかなどを確認するのが基本。巣箱は数箇所に分散して設置するのがセオリーで、はつはな果蜂園では大竹市、宮島、江田島に置いています。ただ、それらを巡回して管理するのは、やはり大変なようです。
その確認作業の時間短縮と作業品質向上のため、コンピューター会社での勤務経験がある松原さんが考えたのが、IoTとAIの導入。巣箱にセンサーをつけて、遠隔地からスマートフォンで温度や湿度をチェックし、週1回の訪問チェックの結果を合わせて、人工知能で分析・管理しようという取組みです。
負担が軽減されるメリットはもちろん、生産履歴を作成できることでエンドユーザーの安心・満足にも寄与できるとのこと。まだコストの問題や人工知能のデータ不足など課題はあるものの、古くから続く養蜂業と最新技術の融合というアイディアはワクワクする話です。
「ミツバチの飼育には、はちみつの他にもロイヤルゼリーやプロポリス、みつろうの生産やミツバチの販売など、いろいろな可能性があります。福島県矢祭町では耕作放棄地をひまわり畑にして、ひまわりのはちみつを作る試みをしています。IoTとAIの活用もまだ理想ですけど、地道な活動を続けていけば、皆さんの食卓に美味しいはちみつを届けられるのではないかと思っています」
みつばちとはちみつの話
日本で見られるみつばちにはニホンミツバチとセイヨウミツバチの2種がいて、生態が違うため、扱い方や取れる蜜のタイプや生産量なども異なり、飼育のしやすさにも差があるのだそうです。
また、みつばちの行動範囲は、半径2~3km程度。その範囲内に生えているものから蜜を集めますが、季節ごとにさまざまな花が咲くため、どの花から蜜を取るかによって、できるはちみつの味も色も異なります。
実際、会場内に用意された試食コーナーには、採取された季節や場所が異なるはちみつがズラリと並び、その色や香り、そして味の違いに誰もが驚いていました。
まず1口味わって「美味しい!」「自分が知っているはちみつと違う!!」と目を輝かせると、ひとつずつ順番に味見をして「こんなに(味が)違うんだ」と驚嘆。これまで抱いていたはちみつの概念が、完全に覆されたようでした。
「僕も昔ははちみつが嫌いだったんです。美味しくなかったから」
という松原さん。
市場に出回る大半のはちみつは、個人の養蜂家から集めたものを混ぜて加熱しており、国産はわずか6%程度で、ほとんどが中国産なんだそう。最近では生産者の見える、産地もはっきりした商品が増えてきた。「自分で作ったものを食べて『美味いな』と思うようになった」松原さんは、そういう本物のはちみつが消費者の手元にどんどん届くようになってほしいと願っています。
はちみつの健康効果については、エビデンスは不明ながら、抗酸化作用やアンチエイジング、二日酔い対策などの効果が謳われていますが、その中でも、松原さんご自身が最も実感しているのは二日酔い解消の効果。
「朝、大さじ1杯のはちみつを取れば、一発です」
経験に裏打ちされた、自信に満ちたひとことに、会場内のビジネスマン諸氏からは「おぉ~!」と嬉しそうな感嘆の声が漏れました。少なくとも今日の参加者宅は、一家に一瓶、はちみつが常備されるにちがいありません。
グループワークショップ「お題“もし、比治山で養蜂を始めたら” 」
さて、松原さんのレクチャーでみつばち&はちみつについて学んだあとは、養蜂で比治山を盛り上げるためのワークショップ。グループごとに相談して、具体的なプランを検討し、それぞれの案を発表しました。
もっとも良いアイディアに与えられる「松原賞」を獲得したグループには、賞品としてカルビーの美味しいお菓子が入った「スペシャルお土産」が用意されているとあって、議論は白熱しました。
1組目|「H∞Hプロジェクト」ミツバチの飼育を通して住民の人間関係を豊かに
1組目は、マンションが多い比治山の立地に着目。屋上に巣箱を置いてオーナー制度を導入し、ミツバチの飼育を通してマンション住民の希薄な人間関係を豊かにするプランを発表した。その名も「H∞Hプロジェクト」。比治山と蜂の頭文字Hを数字の8を横にした∞でつないで「ハチミ(ッ)ツプロジェクト」と読ませるのだそうです。
自宅庭でのミツバチ飼育も検討している松原さんは、「マンションに置くのは面白い。屋上の活用もできるし、ミツバチ飼育に対する地域の理解が得られるのはいい」と共感を示した内容でした。
2組目|繁茂している木を桜に植え替え、桜花からはちみつを取る計画
続いて発表されたのは、木が多くなり、子どもの遊び場としては危険視されているという比治山の課題を解決するための案。繁茂している木を桜に植え替え、桜花からはちみつを取る計画が提案されました。この植え替え作業を地元の小学生にしてもらうことで子どもたちも巻き込むことや、はちみつは二日酔いに良いという松原さんのお話を受けて、商品化された暁にはマツダスタジアムでも販売してもらうというプランも。
松原さんは「桜以外の時期にも蜂に餌を与えないといけないので難しいかもしれないが、できないことはない。マツダスタジアムの話などは、広がりがあって面白い」と評価。
3組目|ナチュラルテーマパーク比治山構想!
次のグループが発表したのは「ナチュラルテーマパーク比治山」の構想。「自然のキッザニア」として、体験することをメインに、味わう・観察する・ものを作るという体験を子どもたちにさせる取り組みが提案された。みつばちをスタートに、いろいろな植物を植えて樹木のことを学んだり、木工をしたりと、いろいろなものを体験して知ることができる比治山にしようという壮大なプランです。
これには「街の中の山だからこそできることもあると、興味深く聞いた」と松原さんも感心。
4組目|「HHH♡♡♡」芸術と養蜂のコラボから地域全体の広がりへ
次の班が考えたプロジェクト名は、「HHH♡♡♡」(Hiroshima Hijiyama Honey)。巣箱を買ってアートを施してもらい、美術館の近くなどに設置することで、芸術と養蜂のコラボを実現しようという計画です。さらに、はちみつが100kgほど生産できるという見込みから、段原地区の協賛店に買い取ってオリジナル商品を開発してもらうことや、地域の人が仲間を増やすためにはちみつを活用し、何かを作ったり体験を通してつながりを持つことなど、地域全体に関わりを広げてゆくプランも発表されました。
美術館を巻き込むアイディアに「自然ばかりに目が行くが、そういう活用法もあるのかと、目からウロコです」と松原さんは驚いた様子。
5組目|巣箱オーナー制 体験型の飼育で関わりを!
「比治山の自然を生かして養蜂を楽しみたい」と考えたグループは、巣箱オーナー制度を導入し、体験型の飼育環境にすることで、関わる人が美味しい蜂蜜を食べることができ、ハチも守れて、ハチの働きによって野菜や果物も実るなどたくさんのメリットが得られる点をアピール。外国人に巣箱オーナーになってもらったり、メイドインジャパンのはちみつを買ってもらったりできたらと、国際都市・広島ならではの案も飛び出しました。
「養蜂はどんなことか知られていないので、こっそりやっていると思われないよう、体験してもらうのはいいと思う。インバウンドにつなげていくのも良いと思う」とは松原さんの弁。
6組目|本当のハニートラップ
最後の提案は、「住み分け」。木が大きくなったり、ガードレールが古くなって危ない場所を蜂のエリアにして「いい子はあっちへ行っちゃいけないよ!」と、別の場所に設けた公園などへ誘導するという、あえてハチが危険だということを利用するという斬新なプランです。名づけて、「これが本当のハニートラップじゃー!」。
「アレルギーのある人が刺されたら危険な場合もあるけど、ミツバチで亡くなるケースは少ない。そこまで危険ではない」と、ちょっと戸惑い気味の松原さん。「でも、ハニートラップはすばらしい」とコメント。
全グループのプレゼンが終わり、その中で、栄えある「松原賞」に輝いたのは・・・
・・・・・・ドゥルルルルルル(ドラムロール)・・・・・・・
「H∞Hプロジェクト マンション!」でした!
選者の松原さんいわく、「いちばんリアリティがあると思ったのと、地域と関わることはすごく大事なので、住んでいる人が直接(養蜂に)携わることでより深く関わることになると思いました」。
はちみつロールケーキを囲んで懇親会
ワークショップのあとは、前回に続き広島アンデルセンのオードブル&サンドイッチ、キリン㈱と㈱石見麦酒提供のビール、はつはな果蜂園のはちみつを使って作られた宮島蜂蜜浪漫(ロールケーキ)などを囲んでの懇親会。靴を脱いでリラックスモードになっているせいもあってか、会場のあちこちにできた人の輪からは、和やかで賑やかな話し声と笑い声が途切れることなくあふれていました。
あえる比治山 vol.001 企画概要
主 催:広島市・SATOMACHI
事務局: 株式会社和大地
協 力:カルビー株式会社 Calbee Future Labo・はつはな果蜂園
日 程:2018年10月10日水曜日
時 間:open19:00- / start19:30- 懇親会21:00-
会 場:Calbee Future Labo
住 所:広島県広島市南区松原町5-1 BIG FRONTひろしま7F
案 内:http://satomachi.jp/blog/2018/09/29/aeru-hijiyama001/
文/北野 真弓