こんにちは、すでに装いは真夏モードのSATOMACHIコーディネーター・だんちょ~です。
本日お届けするのは美味しいお酒をいただきながら上杉孝久さんのお話とグループワークショップで盛り上がった“あえるSATOMACHI”のイベントレポートです。SATOMACHIでお世話になっているお店の方々や自然教育に携わる方や行政の方、そして蔵元さんなど30名ほどのいろんな業種の方にご参加いただきました。これから3話にわたってお送りしますのでお付き合いください!
イベント概要 タイトル:あえるSATOMACHI vol.2 〜郷酒・地域と酒を考える〜 日時:2018年4月5日(木) 会場:E-BASE ※あえるSATOMACHI自体の説明に関してはVol.1のレポートをご覧ください。 ※当日の会場では新アイテムのこけだまで稲を育てる「こけ田んぼキット」もお披露目しました。 期間限定で販売中です! こちらより |
イベントは前半はゲストからお話を伺い、後半はそのお話を基に初めて顔を合わせる参加者同士でグループを組みワークショップを行う構成で進行しました。
と言ってもかたいものではなく、最初から美味しいお酒と美味しいお料理をいただきながらのやわらかな雰囲気で会はスタートしました!!!
今回のテーマは『日本酒』なんですが、実は…
私はお酒に強くないので普段は滅多に日本酒を飲みませんでした。飲む時は決まって人にご馳走してもらうときで、お値段高めの間違いのないお酒ばかり(笑)人に選んでもらっているので私自身では日本酒の違いははっきり言えばわかりません。
それでもSATOMACHIの視点に立った時、
日本酒ブームとも言われている中で“さとで作られたお酒と楽しむまちに住む人々”この関係を考えると、SATOMACHIで触れないわけにはいかないということで日本酒大好きなSATOMACHIの代表・和田と一緒に日本酒初心者の私もイベントをつくることになりました。
その中でも今回は『郷酒』をテーマにすると言われ、その聞き慣れないワードに最初は“里酒”と私は脳内変換されていたのですが調べると故郷の“郷”なんですね!
そもそも郷酒は
「酒蔵のある都道府県内、または半径100キロ圏内で生産された米と水から造られた酒」というもの。故郷の水、その水に育まれた米、原料。そして、故郷の人々と風土により醸された酒
これを指す新しい日本酒の定義として生まれた言葉だったのです。
そして今回のゲストは
この郷酒を提唱された日本酒プロデューサーの上杉孝久さん。
この“郷”に込められた想いを伺えると期待が高まります。
まず上杉さんが話をはじめたのは日本酒プロデューサーとしてフランスでお仕事をしていた時のお話でした。
上杉さんがフランスを訪れ、新潟の酒蔵で造られた日本酒を持って行った時フランス人はみな驚いたそうです、その原因は原料となる酒米の産地でした。このお酒は山田錦という今では日本においてとってもポピュラーになった酒米ですが生産地はほとんどが兵庫県産で、そのお酒も兵庫県産山田錦を原料にしていたお酒でした。新潟県にある酒蔵が兵庫県産の酒米でお酒をつくるという行為そのものが、地元産のブドウでしかワインを造らないワイン文化が広がる欧州では理解ができないとのこと。
言われてみれば、なるほど!
地酒という言葉のパワーにこれまでは何でも許容していましたが、これから酒米の原産地を自然と気にしちゃいますね。できれば郷酒が良い!!
郷酒の誕生は、地酒の〇〇を忘れたから?!
上杉さんが理事を務める日本地酒協働組合。こちらが日本において最初に“地酒”という言葉を昭和47年に生み出しました。ある時から日本酒の消費量はどんどん増えていき地元のお米だけでは足りなくなってしまうような状況がその昔ありました。そんな中で大手の酒蔵は次々に地域外、県外の農地で育てられた酒米を集めるようになりました。そうなってくると日本酒というのはどういう酒なのかどうかが分からなくなっていきますよね?
そんな状況の中で上杉さんたち日本地酒協働組合が『地酒』という言葉を定義し、大量生産のお酒と水とお米にこだわった地方の小さな酒蔵で職人たちが仕込んだ日本酒を明確に差別できるようにしたんだそうです。しかし、ここで問題が発生するのです。
地酒を商標登録し忘れる。
そうなってくると、全国の大手も地方も関係なく好き勝手に地酒という言葉を皆が使うような時代になり、先程の話しに戻ると新潟の日本酒なのに兵庫県産のお米を使った地酒というものが生まれることになるのです。
その辺の反省もあり生まれた郷酒をみなさんよく覚えてくださいね(笑)
それでは今回のイベントのために上杉さんが選んだ日本酒の酒蔵とお酒について紹介しましょう。
①泉橋酒造@神奈川県海老名市 / 茜 黒とんぼ 生酛純米酒
泉橋酒造さんは日本酒に使う全てのお米を自分たちの田んぼで収穫しており、極めて少ない農薬で育てることで名前の黒とんぼに表されるように秋になるととんぼが飛び交う田んぼのその風景を見ることができます。味の特徴は生酛(きもと)造りの純米酒です。2年蔵内で寝かせた円熟の味わい、若干の酸味も特徴で、上杉さん的にはぬる燗で飲むのがオススメ。
②東京港酒造@東京都港区 / 純米吟醸原酒 「東京」 芝の酒・六本木の酒
この2つの日本酒は郷酒ではないですが、街のなかでつくるお酒代表として東京23区にある唯一の酒蔵をチョイス。使用する酒米は“芝の酒”が長野県産美山錦、“六本木の酒”が岡山県産雄町。造りは同じなのですが使う酒米が違うので味も香りも異なります。名前に付く街をイメージして味や香りを変化させている東京シリーズは他にも麻布、銀座もありますのでその違いを楽しむのが良いかもしれません。ちなみに今回ご用意した“芝”は芳醇な味わい、“六本木”は濃醇でしっかりとした味わいです。
③本田商店@兵庫県姫路市 / 龍力 生原酒 特別純米しぼりたて 雄町
戦前は山田錦の大元締めを務めていた酒蔵。会長である本田武義氏は京都大学の研究生としても土壌を研究するほど土にはこだわりがあり、使用する酒米は赤磐雄町でつくる一番品質の良いとされる100%有機栽培の雄町。仕込み水は揖保そうめんで有名な揖保川伏流水を使用しております、鉄分が少ない中軟水なので大吟醸酒など高級ラインの酒の仕込み水として最適だそうです。味はまったり感が強く、濃醇で味わいだそうです。
④三宅本店@広島県呉市 / 神力 純米無濾過原酒八十五
実はこのイベントに三宅本店・三宅清嗣社長が一般参加者に混じって参加して頂いていたので、なんと社長直々に説明を行って頂きました!!!
■酒米・神力は戦前使っていたが現代は途絶えてしまったお米。(三宅様より)
戦後に日本酒の需要が増えてきはじめると酒米自体の収穫量が求められるようになります。神力は戦後当時出回っている一般的な酒米に比べると面積あたりの収穫量が少ない品種だったため、戦後は使う人がどんどんいなくなり最終的に生産者がいなくなったのだそうです。
■戦艦に乗せ、世界一周してもアルコール度数の変わらないお酒(三宅様より)
三宅本店が広島県呉市にあったこともあり神力八十五は戦争中、海軍御用達のお酒でした。ある時神力八十五をのせた軍艦が世界一周をしました。赤道直下を2度通過したにもかかわらず、戻ってきて開けた神力八十五は品質に変わっていなかったといいます。その時の品質証明書は今も残っています。
■ブルゴーニュワインのような日本酒(三宅様より)
現在はフランス輸出する際の主力商品にもなっていて、現地のフランス人はこの神力八十五をブルゴーニュワインのような香りがすると言う。そう言わしめるだけはあるのでお肉やチーズとの相性がよい日本酒です。
⑤山岡酒造@広島県三次市 / 瑞冠 純米 山廃仕込み 合鴨米 亀の尾
広島の中でも山間の地域で雪も多く降る地域にあるお米にこだわる酒蔵、合鴨を水田に放し農薬や化学肥料を使わずに育てた亀の尾米をつかい山廃仕込みで造る日本酒。亀の尾は元々山形県で発見された品種で漫画「夏子の酒」でモデルになった米です、ちなみに漫画の中では龍錦という名前で登場します。味わいは天然の優しく奥深く、自然の旨みが穏やかに広がるお酒です。
次回予告
次回は、上杉さんからお伺いした酒造りから広がる話や稲作の話などを。そして最終回は、それらの話を受けて行って激盛り上がりを見せた「渋谷の郷酒をつくろう」グループワークショップの模様をお届けしますね。
ゲストプロフィール
上杉 孝久(うえすぎ たかひさ)さん
1952年生まれ。東京都出身。学習院大学卒業後、出版業界に身を置く。その後、日本橋で創業60年の老舗『いの上』を継承し、赤坂の料亭・日本酒バーなどを出店する傍ら、外食産業のコンサルタントとして活動。平成4年、東武百貨店本店 和洋酒売場新設に伴い売場内に『BAR楽』を開店。徹底した顧客満足度の追及により、売り場面積当たりの売り上げでトップクラスの数字を維持した(平成24年 店内改装により閉店)。また、日本酒の新販売方式を編み出し、若い女性のマーケットを創造するなど、日本酒販売の革命児とも称されている。現在、日本酒市場のすそ野を広げるために、全国で日本酒講座を数多く開いている。上杉謙信公を先祖に持つ米沢新田藩 上杉子爵家九代目当主。そのため、謙信・鷹山・直江兼続など上杉家の歴史関係の講演も多く、日本酒・歴史を含めた講演は年100回を超える。
photo by KENJI KAGAWA