白川勝信(しらかわ かつのぶ) 芸北 高原の自然館 学芸員
広島県芸北地域で、湿原、半自然草原、里山林など「地域の人との関わりの中で維持されてきた生態系」の保全をテーマに博物館活動を展開している。子ども、事業者、行政、ボランティアなど、様々な主体による自然への関わり方を見直し、新たな仕組みを組み込みながら、地域と自然を将来に残していく道を模索している。2003年4月より芸北 高原の自然館に学芸員として勤務(現職)。2017年に第1回 ジャパン アウトドア リーダーズ アワード 大賞受賞。専門は生態学(博士(学術))。
11月28日(水)、中区・寺町にあるNPO法人ひろしまジン大学の事務所に、今回もポツリポツリと参加者が集まりました。ちなみに、このひろしまジン大学は、県内23市町を大きな大学(まなびの場)として捉え、広島について学び、広島を楽しむための授業を行う「地域学習事業」を展開する団体です。広島でまちづくりに関わる人なら一度は耳にしているかもしれませんね。
机の上には、大崎上島産で糖度12度の「ウェルカムみかん」。定刻の19時となり、あえる比治山がスタートしました。
テーブルごとの自己紹介タイムが始まるころには、会場内には甘く爽やかなみかんの香りが漂いリラックスした雰囲気に。そうした中、この日の講師である白川勝信さんのお話が始まりました。
福岡県出身の白川さんは、大学進学に伴って広島へ移住。広島大学大学院卒業後、2003年から北広島町・芸北地区へと移り住んで、高原の自然館で学芸員として働き始めました。それ以来、生物多様性や生態系の保全などに関わる様々な取り組みを続け、2012年からは「せどやま再生事業」、2015年からは「茅プロジェクト」といった他に例のない事業を地元の人々とともに行っているのだそうです。
「おじいさんは、山へ柴刈りに・・・」
白川さんによれば、昔話に出てくる「おじいさんは、山へしばかりに・・・」の『しば』は、草の芝ではなく、実は燃料として使う『柴』の木のことなのだとか。また、日本全体で生み出す鉄の8割が中国山地で取られていた頃、人々は水を流しながら山を削って鉄を取り、木を焼いて炭にして製鉄作業を行うなど、山全体を使って暮らしていたそうです。
このように山は、暮らしに欠かせない大切な存在でした。しかし、生活スタイルの変化とともに人々と山の関わりはなくなり、山は荒れ、ますます人が離れ……日本全国、あちこちで負のスパイラルが続いているのは、ご承知のとおりです。
中国山地のたたら場をモチーフにしたといわれるアニメ映画「もののけ姫」では、死と再生を象徴する「だいだらぼっち」がドロドロの黒い物体となって山を覆い、そのあと緑の山が再生されるシーンがありますが、白川さんによれば、それにそっくりなことが芸北で毎年起こるのだと言います。
4月、山焼きが行われる北広島町の雲月山(うんげつざん)は、一度は山全体がまっ黒焦げになりますが、2週間ほどで草が生え始め、夏にはササユリをはじめとする花々が咲きそろいます。昔から繰り返されてきた山焼きは、雲月山の生態系を守り、高い木の群生のない珍しい草原の山であり続けることを可能にしているのだそうです。毎年4月に行われるこの一大行事には、地元の中学生をはじめ、各地から駆けつけるボランティアが参加し、続けられているのだそうです。
里山再生のキーワード「か・や・ぶ・き」
白川さんいわく、里山を考えるには「か・や・ぶ・き」を頭文字とする4つのキーワードがあり、先ほど紹介した山焼きには「か」以外の3つがあると言います。
か・・・貨幣経済:地域経済の活性化
や・・・野生生物:生き物の保全
ぶ・・・ 文化 :風習や技術の継承
き・・・ 教育 :見学や活動を通じた地域学習
かつて人々が上手に活用していた「せどやま(里山)」は、いまや多大な労働力と税金などお金をかけて整備されるようになってしまいました。ですが、いくらお金と労働力を投入しても、根本的な問題解決にはなっていないため、終わりがありません。
考えるべきは、
どうやってお金と労働力を集めるか?
ではなく、
どうやって問題を解決するか?
なのだと白川さんは言います。
芸北のせどやま再生事業と茅(かや)プロジェクト
山焼きではできていなかった「か」(貨幣経済)の条件も満たした事業が、2012年から始まった「芸北せどやま再生事業」です。
この事業は、地域住民が自ら木を切って「せどやま市場」へ持ち込むと、相場より少し高い値段で買い取ってもらえて、集まった木は薪に加工されて販売される…という取り組みです。
そんな経験をした子どもたちが中学生となり、次に立ち上げたのが「茅プロジェクト」、通称「茅プロ」です。
この事業による収益で、学校に冷水機が導入されたほか、修学旅行時は1人1,000円ずつ配られるのだと言います。
地元の子どもたちも巻き込み、すっかり北広島町・芸北地区に定着しているせどやま再生の取り組み。参加者たちはプレゼン画面を写真に収めるなどしながら熱心に耳を傾けていました。
グループワークショップ「お題“もし、比治山で「せどやま事業」を始めたら” 」
興味深い事例紹介のあとは、白川さんから伝授された
①向かうべきゴールをはっきりさせること
②進むための道筋
③実現するための「現実的な」手段
という「ワークで大事にするべき3つ」を踏まえて、机ごとに具体的なプランを検討するグループワークへ。
1組目「せどやま文化祭 in 比治山」
2組目「花咲かじいさんザックザク(咲っく咲く)」
たどりついた結論は、老朽化した桜の木をチップにして燻製をつくり、代わりに新しい木を植えるというプラン。燻製は、公園内に店を作って売ったり、近隣の飲食店でも買いたい、使いたいと言ってもらえる商品にしたいといったことまで考え、花見客を呼び戻すことを狙いとしています。20ブロックに分けて桜を植え、20年ごとに切ったり植えたりしていけば、桜のオーナー制度もできるのではないかという大計画なのです。
3組目「ひじやマネー事業」
全グループのプレゼンが終わり、ドラムロールのあと発表された白川賞は………。
「花咲かじいさんザックザク(咲っく咲く)」
「最初に始められそうだから」という理由から選ばれましたが、「どれも良かった。面白かった」と、甲乙つけがたい名案揃いとの評価でした。
「花咲かじいさん」のプランを聞きながら「比治山にはどんぐりもたくさんあるし、これは絶対ブタだ!!」と思っていたという白川さん。ブタを育ててベーコンを作り、広島が誇る味覚の牡蠣とベーコンを食べながらビールを飲みたい、という夢が語られました。さらには「公園の周りに網を這わせて、ホップを育ててビールを作れたら楽しそう」という一歩踏み込んだアイデアも。
「(どのアイデアも)やれそう、やってほしいと思いました。絶対やってください!!」
白川さんの熱いメッセージを受け、何かできることがあるかも・・・と夢を膨らませながら、その後の懇親会に。今回も㈱広島アンデルセン提供のオードブル&サンドイッチ、キリン㈱提供のビールなどを囲んでの懇親会。
ちょっと肩が触れ合う距離感と食事とお酒は、お互いの気持ちの距離も近づけてくれたようで、いつまでも話し声と笑い声が絶えることはありませんでした。
あえる比治山 vol.002 企画概要
案 内:http://satomachi.jp/blog/2018/10/31/aeru-hijiyama002/
文/北野 真弓
COMMENTS
コメントはまだありません。