SATOMACHI/さとまち

街中の自然を味わう仕掛けで、来を創る。

つくりたいのは、イベントではなく、その先にある「川を楽しむカルチャー」

通勤途中、ふと太田川に目をやると、川の上に人が!?なにやらボードの上に立って必死に漕いでいる、ミズスマシのようなあれは何だろうか?そんな経験をしたことがある方、いらっしゃるのではないでしょうか。
フラワーフェスティバルやカープの優勝パレードなど、目にする機会が増えてきたSUP(サップ。スタンドアップパドルボードの略)。今回、広島SUPの代表であり、2019年10月13日・14日に広島市内で開催されるSUPの国際大会「RiverDo!」の仕掛け人の西川氏から、「イベントの仕掛け方」をテーマに、このイベントの狙いや込められた思いについてのお話を伺いました。さらに学びを深めるため、“比治山公園を活かした国際大会はコレだ!” というお題で、グループワークショップを行いました。比治山公園の特徴を活かしてどんな国際大会ができるのか、参加者のみなさんからは様々な視点で、ユニークなアイデアを発表してもらいました。

会場は、元安川と原爆ドームを眼下に臨むおりづるタワー6Fのドリーム・アーツさん。大企業向けのITサービスを担っているドリーム・アーツさんは、人が資産であり、日本だけでなくグローバルに勝負できる人を求め、そうした人たちが憧れ、気持ちよく仕事ができるようにとオフィスづくりにもこだわっています。多様な人が集まり、熱い思いが伝播するような場所になってほしいと、昨年12月に続き、今回も会場を快く提供してくださいました。

先駆けるおもしろさ

西川氏は、サーフ天国・スキー天国と言われていた時に大学時代を過ごし海や山でプレーしてきました。バブル崩壊のころに大学を卒業し、証券会社で働いていましたが、しばらくして独立を決めました。
「同僚が上司からボロボロに言われるのを見ていて、同じ苦労するのであれば、誰かにやらされるのはなく自分でやってやろうと思った。」
ちょうどそのころ流行り始めていたのがスノボー(スノーボード)で、西川氏はどんどん先取りし、中国地方で初めての大会を仕掛けるなど、新しいスポーツのパイオニアとしての活躍が始まりました。

西川氏によれば、先駆けの醍醐味は、大きく2つあるらしいです。

  • 新しいスポーツをすると、チヤホヤされるし、とてもモテた。
  • 少数でやっている快感。

2つ目について補足をすると、スキー全盛の時代に、恐羅漢のスキー場で30人くらいの仲間とスノボーをしていると、「自分たちだけがこの楽しさを知っている、味わっている」という得も言われぬ特別感があるのだそうです。

SUPにはまった瞬間

そんな西川さんがSUPを始めるのに迷いはありませんでした。
「ハワイで、レジェンドと言われるサーファーの人たちがやっていたので絶対流行る、流行らないわけがない。」
とすぐに飛びつきました。最初は全然立てず、イマイチだったようですが、その後ボードが良くなり立って漕げるようになると、おもしろくなってきたそうです。そして、海ではなく、目の前に流れる川ですると面白いのではと思うようになりました。

しかし、ここで一つ疑問が。
「そもそも川でSUPをしていいの?」
誰もやっていなかったので、まず市役所に問い合わせ。すると、国交省に、そして河川時事務所にと回されたものの、一つの答えにたどり着きました。
「川は道路と一緒でやってもいいですが、気を付けてやってください。」
なんだやっていいんだと、安心して川に乗り出すようになった。

実際にSUPで川の上を移動していき、天満川→横川→本川と漕いでいくうちに、原爆ドームが見えてきました。そう、まさにこの会場の目の前です。

その瞬間、これまで雪山や海でしか味わうことができないと思っていたあの開放感を体に感じることに。まさか、街中のこんなに身近なところで味わえるなんて。この時味わった感覚がたまらず、西川さんは広島の川でのSUPにはまってしまいました。

広島の川を、まちを知る。そして、カルチャーをつくる。

SUPをきっかけにして、広島の川のことを知っていくと、おもしろい。地名を見ても広島は川とゆかりが深いことがよくわかってきます。ちなみに、広島市内に6つの川があるが、人が一番溺れるのは、流川らしいです。(笑。お酒には気をつけましょう)

例えば、雁木は300~350か所で、日本一。これは、住んでいる人には当たり前かもしれませんが、SUPをやっている人からすると、「広島の川へのバリアフリーさは日本一」でうらやましい限りだそうです。
たしかに他の都市では、扉をつけて雁木への出入りを管理しているなど、広島とは川を取り巻く環境が大きく違います。

西川氏は、サーフィンをやっていたこともあり、「湘南で朝一で波に乗って、その後仕事に行く」といったスタイルに憧れていたこともありましたが、SUPに出会ってからは、それが広島でできることに気づきました。
そう、「広島で朝一でSUPに乗って、その後仕事をする」のです。

それからはお店を楠木町に移し、かつての広島の物流拠点であった楠木の大雁木からSUPで漕ぎ出せるようにしました。簡単に水の上に出られるし、川の上は気持ちよい。そして、川の上をランニングするカルチャーを作っていこうと思ったそうです。

調べていくと、もともと広島には、川を楽しんできた歴史があり、カルチャーがありました。かつて川に飛び込み台があったり、昔は「広島川まつり」という名で広島市民球場で花火をあげるなどまちなかで川を楽しんでいたのだそうです。

広島の川を、世界に自慢し、暮らす人が感じる「River Do!」

こうした西川氏の思いが、広島で、10月13日・14日に開催されるSUPの国際大会「River Do!」へとつながっていきます。
広島市内をぐるっとまわるように設計された三角州12kmの水上コースを使ったSUPのレース。こんな、ユニークでダイナミックなレースができる環境はなかなかありません。

海外に目を向けると、世界の大都市ではSUPの大会が行われているそうです。
例えば、フランス・パリのセーヌ川ではエッフェル塔を見ながら漕げるコースで、1800人くらいの選手が参加しています。他にも、イギリス・ロンドンのテムズ川でビッグベンを望むコースや、アメリカ・ニューヨークのハドソン川のコースもあります。
このようにSUPの人気は世界中で高まりを見せています。

しかし、今回River Do!を進めていく中で気づいたのが、広島に住む若い世代や広島に来る外国の人たちが、広島を水の都と思っていないということでした。もったいないという気持ちが大きくなり、このイベントへの思いが強くなりました。

River Do!には、「川(River)でなにかしようや(Do)」の意味だけでなく、かつて人もモノも行きかっていた「川(River)の道(Do。どう)」であったり、「これから川(River)をどう(Do)する?」といった意味がこめられています。

そして、この日はレースだけではなく、みんなが川に出てきて、なんでもいいから川でにぎわいをつくる。自分が何かしよう、ひろしまのまちを感じようと思ってもらいたい。そして、川のこれからを考えていこう。
こうした思いが凝縮されたイベントなのです。

一方で、こうした大きなイベントをするのは初めてで、正直どこまでできるかわからず、不安が大きいと言います。
「イベントのことが気になって毎朝目覚める感じ。今までの人生の中で、もっとも朝起きるのがつらい。」

それでも、西川氏を支えているのは、広島の特性を活かすことに出会えたこと、そしてその素晴らしい特性を世界に発信(自慢)していきたい気持ちだと言います。そして最後に、

イベントをつくりたいのではなく、カルチャーをつくりたい。そのためには、毎日続けていくことが重要だし、上から作っていくのではなく下から積み上げていくことが大事。イベントはあくまでその起爆剤だと思う。後々残っていくものをつくり、日々楽しめるものにしてこそ、カルチャーになっていくと思う。

と熱く締めくくってくれました。

グループワークショップ「お題“比治山公園を活かした国際大会” 」

さて、後半は、ワークショップです。
西川氏の話を受けて、グループで比治山公園を活かした国際大会を考え、発表しました。

1組目:「耐えるHIJIYAMA」

比治山の地形が変化に富み、自然だけでなく階段やトンネルなどの人工物も数多くあることに注目。いろんな動きを取り入れた過酷なレースをやりたい。だから「耐える」の言葉が入りました。地元の子どもや年配の方の普段から体力づくりに使ってほしいと、イベント後も意識した内容でした。

2組目:「HIJI Do!」

River Do!に触発されて、とにかく比治山にあるものを片っ端から使って、いろんな楽しみ方のアイデアが提案されました。御便殿広場でほふく前進大会、森をつかったドローンレース大会、どんなことをするか全くわからないが墓掃除大会、野良ネコ大会などなど。西川氏からは、どこかで聞いたことがあるがいいタイトルだ(笑)と褒められました。

3組目:「化ける比治山」

広島港でのコスプレがすごい人気があることから、比治山公園がまんが図書館などの文化施設があり、木々に囲まれ閉鎖的な空間になっている特徴を活かして、コスプレの世界大会を提案。桜の満開の季節で写真が撮れるとなると海外からの人も来るはずとのことでした。

4組目:「比治山スポーツBBQ」

BBQの世界大会というアイデア。通常のBBQではなく、スポーツBBQという競技を参考に、制限時間内にいかにきれいな焼き目をつけるかなど、楽しく競争することも。肉・魚・野菜など広島のおいしい食材が食べられるのはもちろん、世界中からBBQのプロが集まり、世界の料理が食べられ、食の国際交流にもなる、おいしそうな提案です。

5組目:「K-DORO World Cup」

子どもたちのにぎわいをつくろうといったところから考えを始めた、このグループ。比治山の複雑な道路や地形を活かして、世界中で楽しまれている「けいどろ(警察・泥棒)」をして遊ぼうというアイデア。楽しくするために、チーム対抗にしたり、基地づくりもやっちゃいます。大人も一緒に遊べるのがポイントです。

6組目:「ヤッホー大会」

ムーアの広場の開放感を活かしたい。そこに持ってきたのが、シンプルに「大声で叫ぶ」世界大会というアイデア。誰もが参加できるのがポイント。開放的な空間で、大声を出して、ストレス発散、心も解放される。街中という立地を活かした提案です。

さてこの中で、栄えある「西川賞」に輝いたのは・・・

 

 

 

・・・・・・ドゥルルルルルル(ドラムロール)・・・・・・・

 

 

「3組目の化ける比治山!!」。
受賞理由は、比治山全体がコスプレという光景を見てみたい、そして世界的な大会になり得るかもしれないという理由から選ばれたそうです。賞品は、SUPの無料体験という、誰もがうらやむものでした。

いつもはここで終了ですが、今回は、参加者みんなでおすすめのアイデアも選びました。自分がいいと思うアイデアが呼ばれた時の拍手の大きさで競います。どっちが大きいんだろう?となる場面もあったものの、最終的には、「K-DORO World Cup」が選ばれました。

あえる比治山 vol.5 企画概要

主 催:広島市・SATOMACHI
事務局: 株式会社和大地
協 力:株式会社ドリーム・アーツ
日 程:2019年8月26日月曜日
時 間:open18:30- / start19:00- 懇親会21:00-22:00
会 場:ドリーム・アーツ広島本社
住 所:広島市中区大手町1-2-1 おりづるタワー6F
案 内:https://satomachi.jp/blog/2019/07/31/aeru-hijiyama005/

文/岡本 泰志

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