広島市とSATOMACHI(運営会社:和大地)が主催する「あっ“たまる”比治山」は、冬の比治山公園を楽しむきっかけをみなさんとつくる取り組みです。前回の1日目(12月4日)に引き続き、ライターの大須賀あいさんに2日目(12月5日)の様子をレポートにまとめていただきました。今回のテーマである「思わぬ出会いと語らいと」そのままに、はっとする言葉や人や物との出会い、発見にあふれた時間を、一緒にゆるりとお楽しみください。
SATOMACHI
あっ”たまる”比治山、2日目。太陽がにっこり顔を出し、1日目より気温は上昇。冬の外遊びにはナイスな気候です。
比治山公園には、あくせくした日々を忘れさせてくれる、ゆるりとした時間が流れています。
まずは、イベントのスタートを告げる着火式。代表の和田さんが発した「このイベントが非日常で終わらず、日常に持ち帰って楽しんでもらいたい」との言葉がとても印象的でした。昨日から私は、どこか夢心地な気分。「こんな非日常が続けばいいな、でも実際は…」と溜息がこぼれます。それはまるで修学旅行の最終日。二度とこんな楽しい日は訪れないかもしれないと考えていました。しかしそれは大きな間違いです。会場内には日常で楽しめる、そして繋がるモノやヒトで溢れているのですから!
絶対に走らない、みんなで楽しむサッカー│ウォーキングフットボール
2日目は、あっ’たまる’比治山初開催のウォーキングフットボールから始まります。直訳すると、「歩くサッカー」。歩いてサッカーをするとは、一体何だろうと頭に疑問符が浮かびます。
指導してくださるアフィーレ広島さんは、アンプティサッカー(下肢または上肢に切断障がいを持った人たちがプレーするサッカー)、ブラインドサッカー(視覚に障害を持った選手がプレーできるように考案されたサッカー)などのチームを有する、障がい者サッカーのクラブチームです。2年前に立ち上げた英国発祥のウォーキングフットボールは、ワールドカップも開催されるほど世界的にも有名なスポーツだとか。
年齢、性別、国籍、障がいの有無など全く関係なく、誰もが一緒にプレーできます。実際に、今回参加したのは、1歳から70歳までの約80人。こんなにプレイヤーが多様なサッカーを、これまで見たことはありません。
アフィーレ広島の松本由香さんより、「技術向上のためのサッカーではありません。ウォーキングフットボールを通じて、居場所や仲間を作ってもらえたら」とお話がありました。
ゲームルールはいくつかありますが、主に3つ。「走らない」「ボールを取りにいかない」「ヘディングをしない」。そして、チームにどのような人がいるかに合わせて、都度ルールが変わっていくそうです。
中には、明らかにサッカーが得意だと思われる人もおり、ついつい走ってしまう光景も目にします。とにかくゴールを決めたい人もいます。その傍ら、全くボールを追いかけられず、佇んでいる人もいます。そこに松本さんたちコーディネーターがゲームに入り、「どうしたら全員が楽しくできるか」を問いかけ、答えではなく、ヒントを与えます。
普段見ているサッカーと違い、ぶつかり合いもなく、相手の行動を阻止してボールを奪う行為もありません。なんだかとてもクリーンな雰囲気です。チーム内にどんな人がいて、どういう配慮をすれば皆が笑顔になれるか。1人1人が考えながらサッカーをすると、こんなにも優しい空間が生まれることを知りました。
私事ですが、実はサッカーだけでなく、チームで行う球技が苦手です。プレーするのも観るのも、これまで避けていました。
単純に本好きのド級文系だったという理由もありますが、小さい頃からなんとなく運動が苦手。体育の授業では、強制的に集団プレーの中にぶち込まれ、スター級の運動神経抜群さん達が常にボールを持ち、私にボールが回ってくれば落胆される。ボールが目の前にきませんようにと祈りながら、自分の身体能力の劣をマジマジと突きつけられ、誰かと行うスポーツで楽しい思いをしたことがありません。
でも、ウォーキングフットボールなら、楽しんでできるかもしれない。
そんな気持ちを抱いた私は、アフィーレ広島のスタッフさんが着用していたウェアにある、「Kelhi」というロゴに気づいてしまいました。ヨーロッパのどこかの国の言語だろうと思っていましたが、なんとこれは日本語で「蹴る日(けるひ)」をローマ字にしたものだそうです。
「あなたの蹴る日はいつですか?」
優しく問いかけてくれるそのロゴは、ウォーキングフットボールであればきっと一緒に楽しめるよ、あなたの「Kelhi(蹴る日)」を心待ちにしているよ、と言っているようにも見えます。
人はそれぞれ、人生で違った経験をして、その人なりに導かれた考え方や価値観をもっています。その違いを排除するのではなく、大切にしながら、よりインクルージョン(包み込むよう)な発想や多様性を受け入れられるようになるのは、簡単なことではないかもしれません。
でも、きっとウォーキングフットボールは、みんなでそこに近づくための、身近な大切な機会になるに違いありません。
ASOBIBA|火起こし道場&迷路ゲーム
そして、前日と代わり、二日目のASOBIBAは、遊び場「タコゲーム」さんによるプログラム。
午前中のウォーキングフットボールの空いたスペースで急遽実施いただいた火起こし道場は、子どもの真剣な眼差しを引き出す魅力的なプログラム。午後は迷路ゲームでコーンを使って走り回りました!
たくさんのおいしいが、すぐ側に│あったかブース
お腹が空いても、美味しいにすぐ手が届くのが、あっ”たまる”比治山です。今日は、ワンダルフル商店 幅屋さんのきつねうどんをいただきました。
黄金色の澄んだスープに、太くコシのある麺、そしてボリューミーなお揚げ。お出汁は、化学調味料や保存料などを一切使わず、こだわりのいりこ、こんぶ、かつおぶしで作られています。最後の1滴までスープを飲み干せば、まるで体が生き返ったかのようです。
その後、ちょっと一息つきたいと、ドリンクはP-BERRYさんのカフェインレスコーヒーを。普段からコーヒーを一日に何杯も飲む癖があり、カフェインの摂りすぎが気になっていたところです。しっかりと味わい豊かなコーヒーでありながら、カフェインレスで体にも優しい。広島メイドのお気に入り、また一つ発見しましたよ。
アウトドアの楽しみ方は無限大│しぜんとひろしまブース
イベント会場を入ってすぐ左には、センス溢れるおしゃれなキャンプ空間が展開されていました。アウトドアチーム野塾さんのブースです。野塾は、リーダーの玉田将之さんを筆頭に、アウトドア好きが集まって2007年に発足。広島のアウトドアシーンを盛り上げたいと精力的に活動されています。
コロナ禍で一大ブームが来ているアウトドア。しかし私は、興味を持ちながらも、アウトドアデビューできずに過ごしてきました。したいと思っても、なんとなく手が出なかった理由、それは「映えるアウトドア用品を揃えなければいけない」という自分に課した勝手な呪いです。
それを玉田さんに相談したところ、「お湯をポットに入れて外に出て、カップラーメンとドリップコーヒーを持って楽しめば、それだけでアウトドアだよ!」と驚愕の答えが返ってきました。
もちろん便利でかっこいい、こだわりのアイテムを揃えるのは、アウトドアの醍醐味かもしれません。しかし、玉田さんがおっしゃる通り、アウトドアの本質に「映え」なんていらないはずです。
ちなみに玉田さんの一押しは、「夏、冷たい川や海に浸かりながらカップラーメンを食べる」ことだそう!こたつの中でアイスを食べている感覚になり、最高に美味しいそうです(笑)。
古くて新しいライフスタイルを発見│パークセッション
焚き火以外のあったまるツールとして私たちの体温を上げてくれたのが、約190年の歴史を持つ大和重工さんの五右衛門風呂による手湯。日本で唯一、五右衛門風呂を作り続けている企業としても大変有名です。確かな技術をもって作られた鋳物の風呂釜からは、ホワホワと湯気がたっています。手を入れさせてもらうと、ジワッと温かく、お湯はまろやか。まさに極楽です。
その横では、同じく大和重工さんの商品である鉄の窯「かまどん」によるご飯が炊かれています。お米は、農林水産省の棚田百選にも選ばれた、井仁の棚田から。子どもたちも一緒に薪をくべ火力を調節しながら、焚き火炊飯に挑戦。約30分で、ふっくらとしたツヤツヤのご飯が出来上がりです。
このご飯にかけていただけるのが、無印良品の人気商品レトルトカレー。出店ブースに立っているのは、無印良品ブランドを展開する(株)良品計画広島事業部の皆さんです。
同社では、2021年の9月から地域事業部制をスタート。世界に展開する無印が地域活動を?!と驚きましたが、「無印というブランドが大きくなり、皆さんの中で特別な存在になっているかもしれません。しかし本来は、日用品等を販売し皆さんの生活に根付いた存在が無印です」と、広島事業部長の高弘綾子さん。
人と社会の役に立つことを根本方針とし、住民や地元企業と一緒になり地域を盛り上げる無印良品。こんなにも身近な存在でいてくれるとは、とても心強いですね。
冬アウトドアのお楽しみ、焼き芋スイーツタイム
さて、待ちに待った2日目の焼き芋タイムがスタート。1日目と同じく、枯葉をしっかり燃やし、灰とおき火の中に投入された、ホクホクネットリ、最高の焼き芋をいただきます。
おいしい焼き芋を作るコツを、焼き芋担当でBINGO BBQ協会 代表の向井秀樹さんに聞くと「スロー&ロー」とのお返事が。ゆっくりと時間をかけ、低温の間接熱で焼くことにより、この絶品焼き芋が完成するのだそうです。
落ち葉で焼いた甘い焼き芋は、もはやスイーツ。ここだけの話ですが、私は2日間で計6個もいただきました。食べすぎなのは重々承知。でも、やめられないんだな。
街中アウトドアで見つける、冬の幸せのカタチ
2日間にわたるイベントの締めは、ソーシャルアウトドアをテーマに、大和重工(株)の田中宏典さんと、無印良品広島事業部長の高弘綾子さんをお迎えしてのトークセッション。私も含め、皆さんで焼き芋を頬張りながら、興味深い話に夢中です。こちらもまた、後日詳しくレポートしますので、しばしお待ちくださいね。
たのしい、うれしい、おいしいという、幸せの全五感が刺激された、あっ”たまる”比治山2021はこれにて終了。終わってしまう寂しい気持ちも持ちながら、心は充足感でいっぱいです。
山を下りてほど近くに、広島の中心街、そして陸の玄関口である広島駅。
広島という西の都会の真ん中で、生活をしながら自然を楽しむことは、豊かさについてより本質的なところを考える良い機会だったと感じます。
アウトドアとは一体何かを考え続けた2日間。正解はありませんが、答えはきっとそんなに難しいものではないでしょう。
私たちはさまざまな行動の制限を受けながら、この2年間を生活してきました。もう元には戻らないことも少なからずあるといわれる中、これから何を大切にして生きていくか。
来年もまた、焼き芋を食べながら、一緒に考えて、一緒に楽しんで、一緒に笑いませんか。
TEXT:大須賀あい PHOTO:香川 賢志
あっ“たまる”比治山2021 フォトレポート
あっ“たまる”比治山2021 1日目レポート
あっ“たまる”比治山2021 1日目KATARIBAレポート(準備中)
あっ“たまる”比治山2021 2日目レポート
あっ“たまる”比治山2021 2日目KATARIBAレポート(準備中)
あっ“たまる”比治山2021 番外編|たき火ソーシャルアウトドアナイトレポート
【実施概要】
名 称: あっ“たまる”比治山 2021
主 催: 広島市(政策企画課)・SATOMACHI(市の業務受託者㈱和大地の運営チーム)
事務局: ㈱和大地
協 力: OUTDOOR SAVAGE 、安芸高田市観光協会、遊び場「タコゲーム」、アフィーレ広島、APORITO広島店、株式会社石見麦酒、上田康二、株式会社エージェントゼロ、おかもと農園、かけっこスクール、賀茂泉酒造、カルビー株式会社 Calbee Future Labo、CARLOS、北川麦彦、キムラミチタ、株式会社キャンプドアーズ、株式会社ゴールドウイン、サゴタニ牧場、庄原DMO、SEIRA SKIN FOOD STAND.、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ、大和重工株式会社、竹下充、段原キッズクラブ、段原地区町づくり協議会、一般社団法人地域商社あきおおた、TONQAL、庭能花園、野塾、野良道具製作所、P-BERRY、広島環境サポーターネットワーク、広島自然観察会、広島市現代美術館、広島市まんが図書館、NPO法人ひろしまジン大学、BINGO BBQ協会、株式会社Forema、FROM EATS、ボランティアだんばら、みやうち冒険あそび場の会、無印良品、山口ようこ、ヤマノイ株式会社、湯来交流体験センター、ワンダフル商店 幅屋(五十音順)
総合MC:キムラミチタ
日 程: 2021年12月4,5日(土,日)
時 間: 10:00-15:00
会 場: 比治山公園御便殿広場