SATOMACHI/さとまち

街中の自然を味わう仕掛けで、来を創る。

駅からすぐにこんな自然豊かな公園があるとは。都市と自然の架け橋に。

今回も前回に引き続き、”あえる比治山”とし、お手伝いさせていただいている比治山公園のにぎわいづくり業務として開催しました。日本のアウトドアシーンを牽引するTHE NORTH FACEの事業部長の森光氏をゲストに迎え、アウトドアカルチャーの流れやアウトドアの持つ可能性を伺いました。さらに学びを深めるため、“もし比治山がアーバンアウトドア の聖地になったら” というお題でグループワークショップを行いました。様々な切り口からの視点はユニークで、現状の比治山を活かしつつ現代のライフスタイルにマッチする提案などを発表してもらいました。

森光(もり ひかり)|株式会社ゴールドウイン THE NORTH FACE事業部 事業部長1963年生まれ。アウトドアブランド数社を経て、2004年に株式会社ゴールドウイン入社。以来ザ・ノース・フェイスに携わる。


狭い路地を挟んで原爆ドームと隣接する、広島の新名所、おりづるタワー。その6階にオフィスを持つ株式会社ドリーム・アーツ広島本社の共有ペースが、今回の会場です。ライトアップされた原爆ドームの、まさにドーム部分が窓のすぐ外にあり、見慣れた風景がまったく違って見えていました。

主催者挨拶のあと、会場ご提供の株式会社ドリーム・アーツ様より会社のご紹介をいただきました。

株式会社ドリーム・アーツは、大企業向けITを手がけている会社で、先端技術やマーケティングを融合させたシステム開発やコンサルタントを行なっていますが、「ITが浸透し、ITに拘束されている今、良質なアナログ時間を生み出してもらうために『IT断食』を提案しています」という一風変わった会社だそうです。

広島本社は、広島県産木材をふんだんに使ったウッディーなインテリアで、畳敷の小上がりスペース!その畳表は備後畳表で、壁面には大竹和紙が使われていたり、執務椅子や小上がりの座布団などには福山のカイハラデニム、バルコニーソファのクッションには備後絣が採用されるなど、広島県産の素材へのこだわりが徹底されていました!!!

デスクの配置もコミュニケーションが取りやすいように工夫されていて、今回利用した共有スペースでは社外の人との交流も生まれているそうです。「色々な価値観との交流が生まれることで社員の刺激となり、地域貢献にも一役買えるのでは」との狙いからだそうで、おかげで今回はこちらを会場とさせていただけたわけで……ありがたいことです。

【森さんからアウトドアについて学ぶ】

今宵の講師は、アメリカのアウトドアブランド THE NORTH FACE の事業部長を務められる株式会社ゴールドウインの森光(もり・ひかり)さん。中学生の頃から山登りが好きで、ハイキングから始まって夏山縦走、沢登り、ロッククライミング、バックカントリースキー、トレールランニングと、「山に関することは広く浅く経験して、アウトドアの会社で働きたいと思った」そうです。以来、いくつかのアウトドアブランドを経て、現職に就かれました。「趣味と実益を兼ねて、楽しく仕事をしています」と言う森さんの笑顔は、まるで少年のようです。なんだか羨ましくなってしまいます。

森さんによれば、もともとアウトドアはアウトローがするものという位置付けのカウンターカルチャーでしたが、ベトナム戦争の頃からヒッピームーブメントの中で自然回帰が謳われるようになるとともに市民権を得たそうです。そのため、アウトドアブランドは、音楽やアート、カルチャー、サイエンスなどと密接に絡みあいながら育ってきたそうです。その後、極地探検などシビアな条件で活動する人の命を守るウェアやギアが作られるようになりますが、そうしたニーズを満たしつつも、より多くの人にアウトドアを楽しんでもらい、豊かなライフスタイルを実現するべくブランドは成長してきたそうです。そして、どんな人も安全に快適に楽しめる現在のアウトドアブランドになってきたんですね。

【都市とアウトドアの結びつき】

「都市」と「アウトドア」は対極にあるように思えますが、防水や防寒、速乾や蒸れにくさ、軽量コンパクト、イージーケア、UVカットなど、アウトドア商品の開発で培われたテクノロジーは都市でも大いに役立つものばかり。アウトドア用に作られたものが街の中でも活躍しているのが実状です。

8〜9年前の山ブームに続いて、最近はキャンプがブームになりましたが、それは

「物質的な楽しさより、精神的な楽しさが求められているから」だと森さんは言います。

都市生活では得られない刺激があったり、一緒に楽しむ仲間や家族との会話が生まれることが、アウトドアに「ハマる」一つの理由だと考えられます。

都市近郊に自然があることの重要さは、

  • アクセスの良さ
  • アクティビティの多様さ
  • 安全性(天候、治安の面で)
  • コミュニティー(アウェーではなくホームの良さ)
  • 日常の中の非日常

といった点に見いだすことができるそうです。

東京都昭島市の昭和記念公園で、テントを張って、火を起こして焚き火をするイベントを開催したところ、「山に行かなくても駅近くの公園でアウトドアが楽しめる」と多くの参加者が集まったそうです。自然公園は、キャンプやピクニック、ハイキング、トレイルランニング、野外フェス、アウトドアヨガ、ファーマーズマーケットなど様々な活用法があります。

今回、東京から広島入りした森さんは、新幹線を降りたその足で比治山公園を訪れたそうで

「駅からすぐのところにこんな自然豊かな公園があるなんてスゴい」

と驚き、多くの人がアウトドアを楽しめる可能性が、比治山にもあると感じられたようです。

グループワークショップ「お題“比治山がアーバンアウトドアの聖地になったら” 」

さて、では具体的にどんなアウトドアライフが比治山で楽しめるのか?後半は、ワークショップです。

5人ずつのグループで、「比治山がアーバンアウトドアの聖地になったら」というテーマで話し合います。スタート直後はやや静かだった会場内は次第にガヤガヤしはじめ、参加者の表情も明るく生き生きとして、目に力と熱を帯びてきました。

1組目:作戦名「手ぶらでアーバンアウトドア」

アウトドア初心者は「アウトドアはお金がかかる」というイメージがあるので、4軒ある使われていない店舗を若い人に貸してオープンカフェやBBQセットなどを貸し出す店にし、手ぶらで行っても遊べるところを比治山に作ろう、との提案でした。

「気軽なアウトドアの聖地にしたい」との思いに対して森さんは「一番のハードルは物を買うこと。メーカーにとってレンタルは敵だと思われがちですが、楽しさを知ってから買ってもいいので、すごくいい入り方だと思います」と評価。東京で人気の高尾山ビアガーデンを例に出し、「夏に仕事が終わってから行ける、それくらいの地の利が魅力」と比治山のロケーションの良さを絶賛しました。

2組目:作戦名「ALL IN NATURE」

ドローンやITを活用して植物を育てたり、広い駐車場を生かしてオートキャンプができるようにしたり、陸軍墓地があることからVRで被爆当時の比治山を疑似体験できるようにしたりと、テクノロジーを様々な面で生かしつつ、平和に関わる体験もできるようにして、さらにはすでにある現代美術館やマンガ図書館などのアートと融合させ、「アートとテクノロジーと平和の聖地にする」というアイディアです。そして、比治山を自然と人の関係性を見直せる場に、という案でした。

「アートって、いいですよね」と共感を示した森さんは「THE NORTH FACEもテクノロジーとアウトドアは密接に関わっているという考え方なので、親和性があると思う」と大きく頷きました。

3組目:作戦名「エントリーキャンプの場」

街の中にあってすぐに行くことができることから、子供のエントリーキャンプ体験の場とするべく、昆虫採集やツリークライミングができる環境を整えたい、と訴えたのは3つ目の班。カープやお好み焼きなど復興とともに発展したコンテンツが地域に愛されている広島で、「ボランティアの人たちに森林整備を担ってもらい、地域で一緒に比治山を育てていきたい」と夢を語りました。

それを受けて森さんは「都市のすぐ近くにあって、手が入っていない山林が逆に素晴らしいと思います。ツリーハウスのデザインをする小林さんという知人と『デッキを作ってテントを乗せられないか?』と話したりしますが、そういうのってワクワクしますよね。復興して70年が過ぎ、せっかく森が大きくなったので活用してほしい。スカイウォークも活用して、都市と自然の架け橋としてほしいです」とイメージを膨らませてくれました。

4組目:作戦名「はじまりは比治山でした」

続くグループは、「マンガ図書館や現代美術館がある北側は訪れても、公園の南側に足を運んでいない方が多いのでは」と問いかけます。そちら側はトレールランニングやロッククライミングができる、面白いエリアだというのです。

そこで「比治山を県民のアウトドアデビューの聖地に」との提案をされました。

アウトドアを卒業した人がグッズやギアを手渡していってリユースし、初心者が安心して行けるような手厚いケアをすることで、アウトドアに興味を持った人はまず比治山で体験する仕組みを作るというアイディアです。そこから著名な登山家が生まれて「はじまりは比治山でした」と語られるのが夢だという、まさに夢のある提案でした。

それには森さんも「初心者向けということで、多くのアウトドアブランドが協力すると思います。みんな何か新しいことをやりたいと思っているので」と大ノリ気でした。

5組目:作戦名「アートネイチャー」

最後の提案は「アートを楽しみながらハイキングやトレールランニングができるような聖地になれば」というもの。自然そのものがアートだという考え方から、興味のある人たちが自ら整備をして、伐るところは伐って明るくしたり、残すところは残して自然の景観をアートとし、美術館も併せて自然とアート、ハイクとトレランが融合する場としたい、とのプレゼンでした。また、物作りなどいろいろなことができるアトリエスペースも確保したいというプランも発表。作戦名を「アートネイチャー、もとい、アートリエネイチャー!」と高らかに読み上げると、会場は笑いに包まれました。

「今日は北側から(公園に)入った」という森さんは「美術館があって彫刻があって…。写真を撮りたくなるのって、そういうところ。プロモーションになるので、美術館は良い財産だと思う」とアートの活用を推奨されました。

その中で、栄えある「森賞」に輝いたのは・・・

 

 

 

・・・・・・ドゥルルルルルル(ドラムロール)・・・・・・・

 

 

 

 

「みんないいアイディア」と全員に称賛の拍手を送った森さんは、悩んだ末に「メーカー的に言うと初心者向けのプランなんですが、よそ者なので広島に来ることを期待したいという点で、平和に触れた2番目の班」を選ばれました。

優勝した「ALL IN NATURE」チーム。賞品のサツマイモと。

 

懇親会

ライトアップされた幻想的な原爆ドームを間近に眺めながら、森さんも交えて開かれた懇親会は、主催者から「そろそろお開きに」と繰り返し促されるほどの盛り上がり。参加者の皆さんは、名残惜しそうに夜更けの都会へと紛れて行きました。

あえる比治山 vol.003 企画概要

主 催:広島市・SATOMACHI
事務局: (株)和大地
協 力:株式会社ゴールドウイン、株式会社ドリーム・アーツ
日 程:2018年12月7日金曜日
時 間:open18:30- / start19:00- 懇親会21:00-22:00
会 場:ドリーム・アーツ広島本社
住 所:広島県広島市中区大手町1-2-1 おりづるタワー6F

案 内:https://satomachi.jp/blog/2018/11/23/aeru-hijiyama003/

文/北野 真弓

森さん直々にジオドームの設営をしていただきました!恐縮です!

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