自由なお酒の“クラフトビール”で、昔の風景を取り戻す?

今回は、島根県江津市でクラフトビールメーカー“石見麦酒”を立ち上げ活動する山口厳雄氏をゲストに迎え、実際どのようにクラフトビールを立ち上げたかを伺いました。さらに学びを深めるため、比治山を仮に舞台にし、“比治山のクラフトビールをつくろう” というお題でグループワークショップを行いました。多様な参加者のおかげで“比治山ビール”のアイデアも面白い視点のものが発表されました。

山口厳雄(やまぐち いつお) 石見麦酒
2002年信州大学大学院を卒業。2002年~2006年マルコメ株式会社にて、醸造技術開発、インスタント食品の商品開発を行う。2006年~現在 実家の稼業である、特注家具メーカーを経営。2014年~現在 夫婦で石見麦酒を立ち上げる。クラフトビールの製造はもちろんのこと、実家の稼業と結び付けて、全国の小規模ビール工場の設計・施工を行っている。(現在全国で20カ所の実績)

 


8月7日(火)、夕方。立町電停近くの瀟洒なオフィスビルへ、家路を急ぐビジネスマンの波に逆行して、続々とビール好きが吸い込まれてゆきました。ネオンがちらつきはじめた繁華街を眼下に見おろす、スタートラム広島12階・KIRIN広島事務所で開催されたのは、「あえるSATOMACHI vol.3 ~クラフトビールを通じ、地域を考える~」。年齢も職業もさまざまな40名ほどの男女が集いました。

会場入り口には、色とりどりのオシャレなラベルを纏った330mlの小瓶が7本。石見麦酒様のクラフトビール6種とシードルです。

“えっ、選んでいいんですかぁ” “うわぁ、迷うなぁ”

ファーストドリンクとして、7種のうち1本を選ぶように勧められると、参加者はもれなく笑顔に。迷った末に気になる1本を手にすると、各々、6~7脚ずつイスがセットされた各テーブルへと散らばってゆきます。ほとんどが1人ないしは2人程度での来場でしたが、各テーブルでは、名刺交換したり、お互いが選んだビールをテイスティングカップに注いで味見しあったり、イベント開始前からなごやかムード。受付ではカルビー様ご提供の「ふるシャカ」が配られていたため、しだいに会場あちこちからシャカシャカという音が響きはじめ、つまみ&ビールで早くも飲み会状態となっていました。

19時半。いよいよイベントスタートです。

主催者挨拶のあと、会場ご提供のKIRIN様より、81年前、大手町に事務所を開設したところから始まった「KIRINと広島」の歴史についてお話を賜り、続いて石見麦酒・工場長の山口巌雄さんより、ビールと発泡酒の違いや酒税法についてレクチャーがありました。

ビールは自由なお酒です

「東京からいちばん遠い町」として知られる島根県江津市で開業した石見麦酒は、約9坪の小さな工場で、いまや「石見式」と呼ばれ全国20ヶ所の小規模ブルワリーで採用されている独自の方法で醸造。地元の農産物を使ってお酒を作り、店舗は持たずに移動販売などで客の手元に届けるという、生産者と消費者の顔が見える商売をされています。

「当初、石見麦酒で生産されていたのは、発泡酒でした。発泡酒って、ビールと何が違うのかご存知ですか?」

主原料とアルコール度数などは、同じです。違うのは、麦芽含有率や副原料についての制限、醸造量の最下限など。でも、2018年4月からは法律が変わり、副原料が含まれていてもビールとして認められるようになって、さまざまなフレーバーのビールが誕生するようになったそうです。それを受けて、「関わる人の名前をできるだけ多くラベルに記そう」と地元素材で発泡酒を製造してきた石見麦酒も、この春からはビール会社となりました。

ビール作りに欠かせないホップは種類豊富で、どれを使うかで香りも千差万別、そこに副原料を加えられるようになったため、味のバリエーションは無限大に広がるのだと、山口さんは表情を輝かせます。

「ビールは自由なお酒なんです」

石見麦酒の6種のビールについても、使われている副原料や誕生秘話などの解説を聞き、改めて色や香りの違いも確かめながら飲み比べて、参加者の皆さんは想像を超えるビールの奥深さに感慨を深めているようでした。

グループワークショップ「お題“比治山のクラフトビールをつくろう” 」

さて、ビールについての造詣をぐぐっと深めたところで、いよいよ本日のメインイベント「比治山でクラフトビールを作る」ワークショップの始まりです。

ところで、そもそも「クラフトビール」って何でしたっけ???知っているようで、意外と知らなかった(考えたこと、なかった)かも………。今さら訊くにも訊けず、もやっとしていましたが、山口さんのレクチャーでスッキリしました。

1994年の酒税法改正により巻き起こった「地ビール」ブーム。観光地を中心に、全国でローカルブランドが乱立しましたが、しだいに大規模メーカーが幅をきかせるようになり、淘汰されていきました。2004年頃から設備投資を抑えた品質重視の小規模醸造が再び増え始めてきたとき、かつてのブームと衰退で広がった「地ビール」のマイナスイメージを払拭すべく「クラフトビール」という新しい呼び名が生まれたのだそうです。

つまりは、その土地ならではの個性がきわだったビールがクラフトビール。「比治山ならではの、比治山らしいビールを作ろう!」というのがワークショップのねらいです。

比治山のいまの情報を抽出

では、比治山って、どんなとこ?まずは、比治山をよく知る方々に語っていただきました。

長く地元で暮らす段原地区まちづくり協議会会長の梅田憲夫さん、段原地区連合町内会会長の秋田正洋さんからは「見通しのよい山で、このへん(立町あたり)から比治山を見ると桜の時期は山がピンク色に見えるほどだったが、今は雑木林が茂って、囲まれた桜が枯れてしまっている」と古きよき時代を懐かしむお話を紹介していただきました。

比治山を守り育てる会の方からは「30代の若い力で山を整備し、比治山を後世に残せないか」とのアツい意欲が語られました。

また、学生時代から子育て中の現在まで比治山を頻繁に訪れ、イベント開催などもしているモチプロ・サポーターズの尾崎マコトさんは「比治山ビールができたら、大人が来て、家族連れも来て、比治山を巡ってもらえるのでは」と期待感満載のコメント。

段原ショッピングセンターを運営するイオンモールの麻西涼さんは「地域が活性化すれば相乗効果で良いショッピングセンターになっていけると思う。10年後、(ショッピングセンターとその周辺が)にぎやかな場所になっていたら嬉しい」と共栄への希望をアピール。比治山ビール創作にも興味津々といった様子でした。

お酒も入った柔らかいアタマでワークショップ

ワークショップは、テーブルごとに、まず「比治山にあるもの、なーに?」をテーマに歴史や自然など地域資源を洗い出すブレインストーミングをしたあと、相談してオリジナルクラフトビールをプロデュースし、プレゼンするという流れ。

段原グルメマップを広げたり、身を乗り出したり立ち上がったり、身振り手振りをまじえて自分の意見を披露したり…とにかくどのグループも、熱量がハンパない。皆さん、アツすぎます。とても数十分前に会ったばかりの人たちとは思えません。活発に意見交換する声に混じって時には笑い声も聞こえ、真剣な表情でウンウンと頷く姿も見えていました。

プレゼンはガチバトル!

大盛り上がりの中、あっという間に時間は過ぎて、いよいよクライマックスです。「山口賞」をかけたプレゼンタイム!


1組目 タイトル(商品名)はHIJIYAMA2030
「近い未来へ生まれ変わる」をコンセプトに、ホップの香りを活かした深い森のような香りの、琥珀色で、爽やかな味のビールを提案されました。山口さんの講評に会場は「おぉ~っ」というどよめきと笑いが起こりました。

山口さん講評:未来をイメージするというのは良い。(石見麦酒でも)使いたい。

2組目 「道がわかりづらく、どこへ行けば何があるかわからない比治山だけど、たどり着けば楽しいことがある。ビールをきっかけに来てほしい」との思いから、3種類のビールを作り、「ココに行かないと、このビールが買えない」という秘密の場所を3ヶ所設けることを提案しました。色は、キュウリ(猿猴川の河童伝説から)と森の緑、桜のピンク、見渡したとき見える海と川の青で、香りと味は、それぞれキュウリ、桜、潮風をイメージ。子どもと一緒に迷いながら探して、3種のビールと出会ってほしい、ということでネーミングは迷いの森の比治山ビール

山口さん講評:ここでしか買えないというのは、すごくいい。石見麦酒のビールも江津でしか買えないため、わざわざ買いに訪れる人がいたり、地元の人が手土産にしてくれたりすることで活性化につながっているんです。

3組目 続いての提案は物々交換の竹ビール

かつては美術館の下あたりから市内を見渡せ、キレイな夕陽も見られたのに、数十年でヤブツバキや竹が茂ってしまった比治山。昔の姿を取り戻すために考えられたのが、タケノコや不要な植物を切って持ってきたらビールと交換できて、その植物を他の誰かが活かせるようにする持続可能な仕組を作ろうという、画期的なアイディアです。作りたいのは、竹の色、竹の香りのビールとのこと。「ビールを飲みたい!という力だけで問題解決につながる」という夢のプランを、アツくアピールされていました。

山口さん講評:環境も良くなるし、いいアイディア。竹のカップで飲めたら、なおいいですね。

4組目 発表したのは、「下はグリーンで、泡だけピンク」という斬新なビール。桜、森、美術館など多様性に着目して、考えたそうです。もともと比治山は海に浮かんでいた島だったというメモリーから、緑の部分はソルティな味わいで、ピンクの部分は花びら舞う桜の香りにしたいというプラン。大切な人と向き合う花びらビールと、女性が好みそうなロマンチックな名前がつけられていました。

山口さん講評:塩を入れたビールもいい。緑とピンクというのもできなくはないし、桜は香りもいいし酵母も取れるので、そういうのも使ってもいいのかな。

5組目 次のグループは、植生が豊かな比治山には四季折々いろいろな色が見られるということで、春の桜色、夏の森をイメージしたハーバルな香り、秋の落ち葉から連想されるマイルドでコクのある味わいのビールをプロデュース。オランダ語の「四季」からSEIZOEN(セイズン)と命名され、冬の牡蠣とのマリアージュも提案されました。

山口さん講評:実は石見麦酒の「セゾン」も季節を意味する名前なんです。ベルギーの農耕をする人々は農閑期にビールを仕込んで忙しいときに喉を潤すそう。ビールは季節を感じられる飲み物なんです。

6組目 続いてのプレゼンは、Mt.71.1。比治山の高さから取った名前だそうです。
白島で作られている日本酒・蓬莱鶴も最近まで比治山の水を使っていたほど水が良いことから、美味しいビールができて人がたくさん呼べるはずだと期待を込めたプレゼンでした。最後は「蛇口をひねったらビールが出るようになったら、ぜったい行く!」という、ぜひ実現してほしい夢の企画も飛び出して、会場内には笑いがあふれました。

山口さん講評:石見麦酒の「セゾン744」も、益田市にある山の標高を表しているんですよ。前のグループに続いて、参加者のネーミングセンスがプロ並みでビックリです。

7組目 最後の提案は、「古き良き比治山を表すビール」。花見に訪れる人が多かったことから、桜を表現したピンク色で、陽だまりのような穏やかな、日常に寄り添うような香りにしたいそうです。お父さんが寝そべってビールを飲んでいる近くで子どもが遊んでいるような、家族でのピクニックをイメージしているとか。名前は、SAKURA1-1号。美術館の番地から取っているとのことでした。

山口さん講評:商品名が謎めいているのがいい。何?と訊かれて説明することで地域のPRができる、いい名前です。


再び光る、ネーミングセンス。参加者の皆さん、ただのビール好きではないポテンシャルの高さを存分に発揮されていますね…。どのグループも熱のこもった本気のプレゼンで、本当に商品化も目前のように錯覚してしまいそうでした(笑)。

その中で、栄えある「山口賞」に輝いたのは・・・

 

 

 

・・・・・・ドゥルルルルルル(ドラムロール)・・・・・・・

 

 

 

 

 

物々交換の竹ビールでした!

「お金に代えられないもので、自然も回復していく。森に手を入れることで昔の風景を取り戻せる、こういうしかけができたら素晴らしい。ストーリーを評価したい」と審査結果が発表されたあと、受賞者には石見麦酒のビールを使った、「いのしし肉の黒ビール煮込み」缶詰が山口さんから手渡されました。

クラフトビール/比治山への想いを胸にワイワイ懇親会

ワークショップのあとは、KIRIN様ご提供の4種のクラフトビールや一番搾り、アンデルセン様のサンドイッチ&オードブル、カルビー様ご提供のお菓子各種、ポプラ様のせんじ肉という豪華ラインナップの懇親会。イベント開始前からファーストドリンクでほろ酔いのうえ、白熱のワークショップを経て完全に打ち解けた参加者の皆さんは、山口さんやKIRIN社員の方々も交えてビール談義に花を咲かせ、予定時刻を過ぎてもなかなか盛り上がりはおさまらない様子でした。

美味しいお酒と食べものは人間関係の潤滑油、なんて言いますが、そこでしか飲めない個性豊かなクラフトビールは、地域活性化の潤滑油となりえるのかもしれないなぁ、なんて思った夏の夜でした。

あえるSATOMACHI vol.3 企画概要

日 程:2018年8月7日火曜日
時 間:open19:00- / start19:30-
会 場:キリン広島事務所
住 所:広島県広島市中区八丁堀16-11 スタートラム広島12F
主 催:SATOMACHI
協 力:株式会社石見麦酒 キリンビール株式会社広島支店
案 内:https://satomachi.jp/blog/2018/07/24/aeru003/

文/北野 真弓

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